ピアノの「脱力」は、ただ力を抜くことではありません。
「もっと力を抜いて」
「肩の力を抜いて」
「手首を柔らかく」
そう言われても、
どこの力を?
いつ?
どうやって?
が分からなければ、同じ状態を自分で再現することはできません。
Integration Piano Methodでは、身体の構造と動きを知り、
どの筋肉を使っているのか。
何をやめればいいのか。
その結果、身体に何が起こるのか。
を具体的に感じながら、脱力を学んでいきます。
「力を抜く」だけではうまくいかない
ピアノで必要なのは、身体全体の力をなくすことではありません。
たとえば、鍵盤の上に手を構えてみてください。
多くの人は、この状態で「特に力は入れていない」と感じていると思います。
でも実際には、腕が下に落ちないように、筋肉を使ってその位置に保っています。
ここで注目したい筋肉のひとつが、上腕二頭筋。いわゆる「力こぶ」の筋肉です。肘を曲げた状態で腕を鍵盤の上に保つとき、この上腕二頭筋も働いています。ところが、ピアノを弾くとき、腕を空中に保ち続ける必要はありません。
むしろ、その「保つ」働きをやめれば、腕にもともとある重さが、自然に鍵盤へ向かいます。
つまり、Integration Piano Methodで考える脱力とは、
腕から何となく力を抜こうとすることではなく、必要のない筋肉を使うのをやめること。
まずはここから始まります。
でも、どうやって上腕二頭筋の力を抜くの?
ここで問題になるのが、「使うのをやめて」と言われても、どうやってやめるの?ということです。そもそも本人は、「力を入れている」という感覚すらないことがあります。そこでIntegration Piano Methodでは、まず感覚からアプローチします。
人の脳の働きは、大まかに 入力 → 解釈 → 出力 という流れがあります。
何かを感じる。
それを脳が解釈する。
そして動きが生まれる。
「力を抜こう」と直接、運動だけを変えようとするのではなく、まず入力=感覚を分かりやすくするのです。
感覚は「差」があると分かりやすい
私たちは、変化や違いが大きいほど感覚を認識しやすくなります。
そこで最初に、上腕二頭筋をしっかり使っている状態を、わざと作ります。
上腕二頭筋の「オン」と「オフ」を感じるワーク
無理のない範囲で、筋肉の働きをはっきり感じられる程度の重さの物を片手で持ちます。たとえば、ペットボトルなどを入れた袋でも構いません。
その状態で肘を曲げ、数秒間保ちます。すると上腕二頭筋が働き、「ここを使って腕を保っている」という感覚が分かりやすくなります。
十分にその感覚を味わったら、今度は、
ストーン
と、その働きをやめて腕を下ろします。
「力を使って保っている状態」と「使うのをやめた状態」。この大きな差を何度か繰り返して感じてみます。
すると、ああ、これが上腕二頭筋を使っている状態なんだ。そして、これが使うのをやめた状態なんだ。という違いが分かるようになってきます。
多くの方は、このように「入っている力をはっきり感じてからやめる」ことで、脱力の感覚をつかみやすくなります。
※重さは体格や筋力に合わせ、無理のない範囲で行ってください。
この脱力ワークはYouTubeでも紹介しています
実際の動きを見た方が分かりやすいので、この上腕二頭筋の脱力方法はYouTubeでも紹介しています。
▶︎ 動画で「脱力」を体験する
その感覚を、ピアノの前へ持ってくる
上腕二頭筋を「使っている/使うのをやめる」という違いが分かったら、今度はピアノの前で試します。
鍵盤の上に手を構えます。
そして、腕をその位置に保とうとしている働きをやめてみる。
腕を下へ押すのではありません。力を使って落とすのでもありません。
ただ、下がらないように保つのをやめる。
すると、腕は重力に従って自然に下へ向かいます。
そして手や指を通して、腕の重さが鍵盤へ伝わります。
これが、「腕の重さを使う」ということです。
「腕の重さを使う」=鍵盤に体重をかける、ではない
「腕の重さを使う」と聞くと、上半身を前に倒したり、肩から腕を落としたり、鍵盤を強く押し込んだり、というイメージになることがあります。
でも、それとは違います。
腕には、すでに重さがあります。その重さを新しく作る必要はありません。
大切なのは、重さを加えることではなく、もともとある重さを邪魔しないこと。です。
では、指はどうするの?
腕の力を抜いたら、「指も全部フニャフニャでいいの?」と思うかもしれません。
ここで、とても大切になるのが、指の「骨」を感じること。です。
Integration Piano Methodでは、指先が鍵盤に触れたとき、ツンという骨の手応えを感じます。
筋肉で指を固めるのではありません。
鍵盤という物体に、自分の指の骨が触れている。その感覚を感じるだけです。
骨は感じる。
筋肉は余分に固めない。
この両方がある。
「支えなければ」と筋肉で固める必要はありません。
支えとは、骨格を感じること。指の骨を感じるだけでも、音の芯はずいぶん変わります。
脱力すると、音が弱くなる?
これはとてもよくある疑問です。
力を抜いたら、音が小さくなった。音に芯がなくなった。鳴らなくなった。
すると、「やっぱり強い音を出すには力が必要なんじゃない?」と思いますよね。
でも、ここでピアノという楽器の仕組みを知ることが重要です。
ピアノの強弱を決めるのは「鍵盤が下がるスピード」
ピアノの中では、ハンマーが弦を叩いて音を出しています。
つまり原理としては、打楽器的な仕組みを持っている楽器です。
そして、音の強弱を大きく左右するのが、鍵盤が下がるスピード。です。
鍵盤が速く下がれば、ハンマーが弦を速く打ち、強い音になります。ゆっくり下がれば、弱い音になります。そして、あまりにもゆっくりすぎれば、音が鳴らないこともあります。
つまり、強い音=たくさん力を入れるではありません。
必要なのは、鍵盤を必要なスピードで下げること。です。
脱力と、音の強弱は別の話
だから、「脱力したら音が弱くなった」のだとしたら、
脱力したこと自体が問題なのではなく、鍵盤を十分なスピードで動かす動きまでなくなってしまった可能性があります。
脱力は、必要のない筋肉を使うのをやめること。
音量は、鍵盤が下がるスピード。
この2つは分けて考えます。
そして、腕の重さ+指先の骨の感覚+必要な打鍵のスピードがつながると、余計な力を使わずに、芯のある音を出すことができるようになります。
「手首を柔らかくする」=脱力、ではない
脱力というと、手首をぶらぶらしたり、上下に動かしたり、というイメージを持っている方も多いと思います。もちろん、それによって力みに気づける場合もあります。
でも、手首が動いている=脱力できているとは限りません。
手首は柔らかく動いていても、上腕二頭筋や肩では、まだ腕を支え続けていることがあります。
だからIntegration Piano Methodでは、「手首を柔らかくしましょう」という部分だけを見るのではなく、
身体全体がどう使われているのかを見ていきます。
脱力はゴールではありません
ここまで「脱力」について説明してきました。
でも、Integration Piano Methodが目指しているのは、脱力できることそのものではありません。
脱力は、入口です。
身体が自由になる。すると、もっと自由に動けるようになる。必要なテクニックを使えるようになる。音を聴く余裕が生まれる。音楽を感じることができる。
そして、自分はどんな音を出したいのか?この音楽をどう表現したいのか?を選べるようになっていきます。
身体→テクニック→感覚→音楽→表現
Integration Piano Methodでは、このすべてを一つに繋げて学んでいきます。
力で頑張る演奏から、感じて選べる演奏へ
弾けないとき、もっと練習する。もっと頑張る。もっと力を入れる。それもひとつの方法です。
でも、その前に、私は今、何をしているんだろう?と身体を感じてみる。
必要のないことをしているなら、それをやめてみる。
すると、今まで難しいと思っていたことが、思っていたよりずっと自然にできることがあります。
脱力とは、何もしないことではありません。
必要のないことをやめ、本当に必要な動きができる身体を取り戻すこと。
そこから、ピアノはもっと自由になっていきます。
次に読んでほしい記事
腕の重さを使うとは?
→ 腕の重さを鍵盤へ伝える方法
脱力すると音が弱くなる?
→ ピアノの構造と鍵盤スピードから考える
Integration Piano Methodをもっと知りたい方へ