ピアノのレッスンで、
「肘を使って」
「肘で抜いて」
「弾いたあと、手首を回して力を抜いて」
と言われたことはありませんか?
実際に、音を弾いたあとに肘を大きく回したり、鍵盤を指で押してから手首をぐるっと回したりする動きを「脱力」として教えられていることがあります。
でも、肘や手首を動かすことと、脱力することは別のことです。
Integration Piano Methodで考える脱力は、必要のない筋肉の働きをやめること。です。
何か特別な動きを加えることではありません。
「力を抜くための動き」が必要なのでしょうか?
たとえば、腕を前に出して、その位置に保ってみてください。
腕が落ちないようにしている間、筋肉は働いています。
では、その力をやめるにはどうするでしょう?
肘を一周回す必要はありません。
手首を振る必要もありません。
腕を保っている働きをやめれば、腕は重力によって下がります。
これが、「力を抜く」ということです。
つまり脱力は、新しい動きをすることではなく、すでにしている余計なことをやめることなのです。
「肘で抜く」と言われると、何が起きる?
「肘で抜いて」と言われると、多くの人は、肘を動かさなければいけないと考えます。
すると、音を弾いたあとに肘を外側へ回したり、腕全体をぐるっと動かしたりします。
もちろん、演奏の中で肘が動くこと自体は悪いことではありません。
音型やポジションによって、肘が移動することもあります。
腕全体の動きが必要な場合もあります。
問題なのは、「肘を動かすこと=力を抜くこと」だと思っていることです。
肘を大きく動かしていても、その間ずっと腕や手首を筋肉で固めていることもあります。
見た目には大きく動いている。
でも、脱力しているとは限りません。
手首を回しても、力が抜けているとは限らない
これもよくあります。
指で鍵盤を押す。
そのあと、
手首を上げる。
回す。
抜くような動きをする。
そして、「これで力が抜けました」と考える。
でも、ここでも大切なのは、その動きをしたかどうかではなく、筋肉の働きがどうなっているかです。
手首を回すためには、当然また別の筋肉を使います。
つまり、「脱力するために動く」という考え方そのものが、少し不思議なのです。
本当に脱力できると、もっとシンプルです
Integration Piano Methodでは、腕の力が抜けているかどうかを、もっと直接的に考えます。
たとえば、肘を曲げた状態で、少し重さのある物を手に持ちます。
そのまま数秒保っていると、腕を支えている筋肉の働きを感じやすくなります。
そこで、ストーンと、その働きをやめてみます。
すると腕は下がります。
肘を回していません。
手首も振っていません。
ただ、使っていた筋肉の働きをやめただけ。
これが脱力です。
実は「動かす」より「やめる」方が難しい
私たちは、「こう動かしてください」と言われると比較的分かりやすいものです。
肘を上げる。
手首を回す。
腕を横へ動かす。
これは全部、何かをする指示です。
でも脱力は、していることを、やめるということ。
ここが少し難しい。
しかも、自分では力を入れているつもりがなくても、筋肉を使い続けていることがあります。
だからまず、「今、ここを使っている」という感覚が分かることが大切になります。
手首や肘が動くこと自体が悪いわけではありません
ここは誤解してほしくないところです。
Integration Piano Methodでは、手首を動かしてはいけないとも、
肘を動かしてはいけないとも考えていません。
むしろ演奏の中では、必要に応じてどちらも自由に動きます。
音型によって肘の位置が変わることもあります。
指に乗せた重さを違う指に乗せ替えるために、手首を繊細に動かします。
でも、それらは、演奏のための動きです。
「脱力するためにする動き」とは分けて考えます。
脱力した結果、自由に動ける
順番は、動かして力を抜くではありません。
むしろ、
必要のない力をやめる
↓
身体が自由になる
↓
必要なところが自由に動ける
です。
腕を必要以上に支えることをやめれば、肘も動きやすくなります。
手首も動きやすくなります。
指も動きやすくなります。
つまり、自由な動きは、脱力するための方法ではなく、脱力した結果として生まれることも多いのです。
「脱力して見える動き」に惑わされない
人の演奏を見て、
「手首が柔らかい」
「肘がよく動いている」
「腕がしなやかに見える」
と感じることがあります。
でも、その外から見える動きを真似したからといって、同じ身体の使い方になるとは限りません。
大切なのは、その人がどんな動きをしているかではなく、何をしていないのか。
必要のない筋肉の働きをやめているからこそ、必要な動きが自由に出てくる。
外側の形ではなく、身体の中で何が起きているのかを見ることが大切です。
脱力は「力を逃がす」ことでもありません
「力を肘から逃がす」「手首から抜く」という表現もよく使われます。
でも、力が何かの物質のように、腕から肘へ移動して、そこから外へ出ていくわけではありません。
やっていることはもっとシンプルです。
必要のない筋肉の働きをやめる。
すると腕の重さを自分で持ち続けなくなる。
その重さを、指の骨を通して鍵盤へ預けることができる。
これが、Integration Piano Methodで考える脱力です。
まとめ
ピアノの脱力は、
肘をぐるっと回すことでも、
手首を振ることでも、
力をどこかへ「逃がす」ことでもありません。
手首や肘は、演奏の必要に応じて自由に動いていい。
でも、それと脱力は別です。
脱力とは、
必要のない筋肉の働きをやめること。
何かを付け加えるのではなく、
今、自分が余計にしていることに気づいて、それをやめる。
すると、腕の重さを鍵盤へ預けることができ、手首も肘も指も、必要に応じて自由に動けるようになります。
脱力するために動くのではなく、脱力したから自由に動ける。
この違いは、ピアノの身体の使い方を考えるうえで、とても大切です。
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