「力を抜くと、音が弱くなってしまう気がする」
そう感じる人は少なくありません。
だから、強い音を出したいときは、やっぱり力が必要なのでは?と思ってしまいます。
でも、大切なのは、脱力と音量は、同じことではないということです。
ピアノの音量は、鍵盤が下がるスピードで変わる
ピアノは、鍵盤を押すことで内部のハンマーが弦を叩き、音が出る楽器です。
そのため、音量を大きく左右するのは、鍵盤が下がるスピードです。
速く下がれば強い音。
ゆっくり下がれば弱い音。
つまり、強い音=たくさん力を入れるではありません。
必要なのは、鍵盤を必要なスピードで下げることです。
強い音を出したいときは、腕を速く下ろす
では、どうすれば鍵盤を速く下げられるのでしょうか。
ひとつの方法は、腕を下ろすスピードを速くすることです。
腕の力を抜けば、前腕は重力によって自然に下がります。
でも、それより速いスピードが必要なときには、少し筋肉の働きを加えて、腕が下がるスピードを速くすることができます。
ここで大切なのは、どこまでも下へ力を加え続けないこと。
ピアノの鍵盤は、約1cmしか下がらない
ピアノの鍵盤が下がる深さは、約1cmです。
つまり、音を出すために必要なのは、その短い距離の中で、必要なスピードを作ること。
鍵盤がすでに底まで下がったあとも、さらに下へ力を入れ続けると、鍵盤を押し込む状態になります。
Integration Piano Methodでは、これを避けたいと考えています。
感覚としては、鍵盤の底まで押し込もうとするのではなく、8mmくらいまでで必要なスピードを作るくらいの意識が分かりやすいことがあります。
その先は、鍵盤の動きを邪魔しない。
つまり、必要なスピードをつくるために、一瞬だけ筋肉の働きを加える。でも、鍵盤が下がったあとまで押し込み続けない。
この切り替えが大切です。
弱い音を出すときは、腕の力をゆっくり抜く
弱い音の場合は、反対です。
腕をストンと下ろすのではなく、腕の力をゆっくり抜いていく。
たとえば、大切な物や少し重い物をテーブルの上にそっと置くとき。
私たちは、いきなり手を離して落とすのではなく、ゆっくり下ろしますよね。
でも、物がテーブルに着いたあとは、腕の力は抜けています。ピアノでも、それとよく似ています。
腕をゆっくり下ろし、鍵盤に触れたところで重さを預ける。
この動きで、鍵盤をゆっくり下げることができます。
厳密に見ると、上腕二頭筋の働きを少しずつやめながら、拮抗する筋肉とのバランスによって腕をゆっくり下げています。
でも演奏するときに、そこまで筋肉を細かく考え続ける必要はありません。
大切なのは、「腕をゆっくり下ろす」「ゆっくり力をやめていく」という感覚です。
ただ力を抜くだけでは、音が出ないことがある
ここでもう一つ大切なのが、指です。
腕の力を抜いたときに、指までふにゃっと崩れてしまうと、腕の重さを鍵盤へ伝えることができません。
すると、音が出にくい。芯のない音になる。ということが起こります。
これは、重さを受け止める支えがなくなっているからです。
重さを支えるために、手を固めなくていい
ここで多くの人がやってしまうのが、「支えなきゃ」と思って、手や指を筋肉で固めることです。
確かに、それでも重さを支えることはできます。
でも、筋肉で固めてしまうと、指が自由に動くことを邪魔してしまいます。
そこでIntegration Piano Methodでは、支えることを、筋肉ではなく骨に任せると考えます。
指の骨に、腕の重さを乗せる
指には、それぞれ骨があります。
鍵盤に触れている指の骨に、腕の重さを乗せる。
筋肉で形を固めるのではなく、骨の上に重さが乗っているバランスを感じる。
これには少しコツがあります。
でも、一度そのバランスが分かると、自転車に乗れるようになったときのように、いつでも再現しやすくなります。
すると、強い音でも弱い音でも、腕の重さを自在に指の骨へ乗せながら弾くことができるようになります。
強い音と弱い音の違い
ここまでを整理すると、
強い音
腕の自然落下よりも速いスピードが必要なら、少し筋肉の働きを加えて、腕を速く下ろす。
ただし、鍵盤の底まで力を押し込み続けない。
弱い音
上腕二頭筋など、腕を保っている働きをゆっくりやめていく。
すると、腕がゆっくり下がり、鍵盤もゆっくり下がります。
どちらの場合も、腕の重さを受け取るのは、指の骨。
この土台は同じです。
「硬い音」「柔らかい音」は、音量とは別の話
ここでもう一つ分けて考えたいのが、音量と音色です。
「硬い音」「柔らかい音」というのは、音量ではなく音色の違いです。
音色は、
- 指のどの部分が鍵盤に触れているか
- どのくらいの面積で触れているか
- 指の関節をどのくらい固めるか、しなやかにするか
- 手首の関節をどのくらい自由にするか
- 指が鍵盤に入る角度
などによって変えることができます。
つまり、
大きい音=硬い音
小さい音=柔らかい音
ではありません。
大きくて柔らかい音も出せるし、小さくて硬い音も出せます。
音色と「響きの豊かさ」も別
そしてもう一つ。
硬い音・柔らかい音という音色の違いと、響きが豊かかどうかも別の話です。
硬い音色でも、柔らかい音色でも、豊かに響いている音は美しい。
そのために大切なのが、必要のない力をやめ、鍵盤の底へ押し込まないことです。
鍵盤を必要なスピードで動かしたあと、さらに下へ押し続けない。
そうすることで、音色を自由に選びながら、響きを邪魔しない演奏につながります。
脱力すると、強弱も音色も自由になる
脱力とは、何もしないことではありません。
必要のない筋肉の働きをやめながら、必要なときには必要なだけ筋肉を使う。
そして、
腕を速く下ろすのか。
ゆっくり下ろすのか。
どの指の骨に重さを乗せるのか。
どんな角度や接触で鍵盤に触れるのか。
を選んでいきます。
つまり脱力は、音を弱くするためのものではなく、音量や音色を自由に選ぶための土台なのです。
まとめ
ピアノの音量を大きく左右するのは、鍵盤が下がるスピード。
強い音では、必要に応じて筋肉の働きを加え、腕を速く下ろします。
弱い音では、腕を保っている働きをゆっくりやめ、腕をゆっくり下ろします。
どちらの場合も、腕の重さは指の骨で受け取る。
そして、鍵盤が下がったあとまで押し込み続けない。これが大切です。
脱力によって、
強い・弱い
硬い・柔らかい
豊かな響き
を、それぞれ別々に選べるようになります。
脱力とは、音を弱くすることではありません。
音量・音色・響きを、それぞれ自由に選べる身体にしていくことです。
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